昨年度までに収集した資料をもとに、三年間の研究の総括として、周曰校仁寿堂が刊行した『三国志演義』について総合的に考察した。 周曰校刊『三国志演義』には甲本・乙本・丙本の三種類が存在している。これら三本は、各巻の巻頭に「明書林周曰校刊行」と題していることからも分かるように、密接な関係にある。そしてその刊行順序も、甲本が最も早く、乙本がそれに次ぎ、丙本が最も遅いことも間違いない。しかしこれらは単純な覆刻あるいは翻刻という関係にあるのではない。乙本が編集される際には甲本の(あるいは甲本のような)文章にある程度修正が加えられており、丙本が編集される際も同様である。そして甲本と乙本は恐らく周曰校自身による刊行であろう。しかし丙本は、必ずしも確証があるわけではないが、もしかしたら周曰校自身によるのではなく、福建建陽の書肆(余象斗か?)の手による刊行であるかもしれない。 さらに乙本・丙本に見られる挿図に基づいて、両本の関係についても考察した。その結果、本文を比較して得られた結果同様、丙本の挿図は乙本の挿図を比較的忠実に踏襲してはいるが、図の一部を省略したり簡略化したりしている。たとえば数人描かれている人物を一人減らして描くなどである。このことから、丙本は必ずしも乙本の単純な覆刻本ではないことが分かった。 そして周曰校本と密接な関係があるとされる夏振宇本を取り上げ、周曰校本各本との関係を明らかにした。その結果、夏振宇本は周曰校甲本かあるいはそれと密接な版本を底本としていることが明らかになった。
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