本年度は当該研究の最終年度であり、これまでの研究内容を総合し、『太平広記』及び『容斎随筆』の全体像を解明することに努めた。 (1)データベースの補完 各説話カードに関連する日本の説話の情報を付加する他、『太平広記』未収録の六朝から唐にかけての代表的志怪小説作品の説話情報をカード化し、データベースの拡張を図るとともに、申請者が以前に作成した『法苑珠林』『夷堅志』データベースとのリンクを行い、多数の説話を比較する上での利便性を向上させることが出来た。 (2)『太平広記』に関する研究及びその成果の公開 『太平広記』全五百巻の構成を分析し、その説話配列順序の意味の解明を行った。これにより『太平広記』の全体像の把握が極めて容易になるとともに、『今昔物語集』などの日本の説話集との差異も明確になった。その成果は、台湾大学で開催された和漢比較文学会第5回特別例会において、「説話集の構造における笑話の意味―『太平広記』と『今昔物語集』―」という題目の研究発表を行った後、論文化し、『日本女子大学紀要 人間社会学』第23号に「『太平広記』の全体構造における笑話の意味」として掲載された。また、これに関連する研究成果を台湾の輔仁大学の発行する学術誌『日本語日本文学』第38輯に「『法苑珠林』「慈悲篇」の説話にみる仏教的身体観」として発表した。 (3)『容斎随筆』に関する研究及び研究成果の公開 洪邁の生涯及び時代背景についての精査に基づき、『容斎随筆』所収の歴史故事についての解析を行い、この作品の編纂コンセプトについて明らかにすることに成功し、「『容斎随筆』における安史の乱」(『水門 言葉と歴史』24号掲載)、「『容斎随筆』における曹操像」(『日本女子大学大学院人間社会研究科紀要』第19号掲載)等の論文において、その内容を公開した。
|