平成22年度は、研究実施計画の第一段階として、研究インフラの整備としておもに文献の収集を行った。当初の目標として考えていた資料を網羅的に入手することはかなわなかったが、研究を進めるに不足することはなかった。文献については引き続き来年度も継続して収集につとめるつもりである。また、研究課題に関係する現地に赴いて研究者や作家と意見交換を行いながら研究を進めることができた。 第一段階の研究として、1940年代から50年代にかけて、キューバ島をめぐる文化的なアイデンティティについて、文学の領域でどのような詩学が議論されたのかを分析した。具体的には、該当する時代における代表的な文芸誌をコーパスとして、そこに主体的に関わり、表現活動を行った人々のテクスト(小説、詩、評論)を時代順に、またその表現者たちの空間的な移動も考慮に入れながら探った。 その結果得られた暫定的な成果として、1940年代から50年代にかけてのキューバにおいては、ヨーロッパの文化的な動向(コスモポリタニズム)を受け止めつつ、キューバ島独自の文化のあり方(アメリカニズム)を立ち上げようとするグループが複数の方向性をもって生まれたことを実証的に示すことができた。研究代表者はとりわけヨーロッパとの直截的な関わりを換骨奪胎した「アメリカニズム」の様相を分析した。 またその実証プロセスにおいて、「アメリカニズム」を立ち上げた複数のグループの方向性が大きく二つに分かれていることが示され、その分岐点が、キューバと隣接するカリブ海地域の他の諸島の文化的な動向と関わっていることが判明してきた。この点については来年度以降の課題として取り組んでいくつもりである。
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