モンゴル国(ウランバートル市)及び中国内蒙古自治区(呼和浩特市)で当該伝承の写本を見ることができたことが何よりの成果である。前者は2011年8月14日~24日、後者は2011年9月4日~18日におこなった。前者の文献調査では、モンゴル国の鉛版による『チンギス・ハーンの二頭の駿馬』の諸版を見ることができた。その一部の成果は論文「モンゴル国立図書館蔵の共載十二年刊行の鉛版本『チンギス・ハーンの二頭の駿馬』について-2つのタイプの伝承の「共通部分」における差異の明確化に向けて-」にまとめることができた。本論文においては、これまで楊海英氏の転写でしか知られていなかった写本(楊氏がB写本と呼んでいる)をパソコン画面上とはいえ、じかに見ることができたので、楊氏の転写本と対照しながら作成した、ウイグル式蒙古文字からのローマ字転写と日本語訳を全文載せることができた。少なくとも転写のほうは日本における当該研究において当分のあいだ一定の価値をもつであろう。「一定の」というのは、写本の写真撮影が全く許されていないので、転写のみにとどまらざるをえなかったからである。とはいえ、楊氏の紹介した写本がもともと参考にした写本からのローマ字転写であるので、これはそれなりの前進とみなければならない。モンゴル国の文献調査はダムディンスレンの「ハルハ系統」の写本である。 後者の文献調査においては、モンゴル国よりも比較的良好な環境で写本を見ることができたので、2011年秋に国際シンポジウム「オイラド・モンゴル研究の新展開」でそのアウトラインを学会発表することができた。本発表の英語版が2012年度中に刊行される予定になっている。内モンゴルではダムディンスレンの「オルドス系統」のほかにも「ハルハ系統」のものが幾つかみられたのが大きな成果であったといえる(従来の研究においては、断定はしていないものの、後者はないものとして扱われていたためである)。
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