本研究は文献研究とフィールドワークを併用して、中国の文化的多様性と画一性、なかでも漢族と少数民族の間に見られる多様性と画一性を検討するという研究の全体構想の一部分である。 そのなかにあって、本研究における具体的な目的は、中国の民衆に広く愛好されている語り物文芸のひとつである「梁山伯与祝英台」の諸テキスト(漢族による漢語のもの、少数民族による漢語のもの、少数民族による少数民族語のもの)を比較検討し、諸テキスト間の関連性を解明するものである。 本年度は、昨年撮影した広西壮族自治区武鳴県と柳州市の壮語による「梁山伯与祝英台」の歌の掛け合いを、歌い手に聞き書きをしながら、文字テキスト化した。また柳州市の壮族の漢語による「梁山伯与祝英台」の歌の掛け合いを映像記録化するとともに、上記の手順で文字テキスト化した。 壮語の「歌本」は地元では古壮文字で記載される。古壮文字は漢字系文字であるが漢字ではないので、コード表に文字が存在せず、コンピュータ上では文字データではなく画像データとして扱うしかなかった。研究の最終年度末になってではあるが、古壮文字をコンピュータ上で扱える仕組みが整い、これまで収集してきたテキストが、文字データとして扱えるようになった。 収集したテキストの一部を、アルファベット表記の現代壮字、古壮字、国際音標文字によって表記し、対応する漢訳と日本語訳を付し、『人間文化研究』第30号に掲載した。
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