今回の研究テーマの一つである「海外から韓国の都市空間への移住文化研究」は、研究目的において言及した通り、(1)植民地期の「都市空間」における文化研究、(2)韓国からの「海外(中・日)空間」への移住文学研究の延長線上に置かれている。そのため、まず韓国の都市空間に存在している植民地性-都市空間の二重性を、安夕影と岡本一平の作品に表れている植民地近代の「同一性と非同一性」を通じて探ってみた。 続いて、2010年度の研究計画のメインテーマに基づいた研究発表「主権の脱領土化と東アジア市民」は、ネパールといった東南アジアからの韓国の首都圏都市への移住を描いたパク・ボムシンの長編小説『ナマステ』を研究・分析したものである。 この研究は、韓国の小説『小人が打ち上げた小さいボール』の延長線上でネパールの移住労働と児童労働との関係を描いた著書『ガマライジャイ:ネパールの幼い労働者と移住』といくつかの側面で緊密につながっている。著書に見られる、ネパールの山村から都会へ・都会から海外都市への移住は、小説『ナマステ』の前史といえるからである。東アジアの移住は東アジアの南北問題によるものだといえる。 研究発表はまず国家主権について論じているが、近年両極分解された国家主権は、下位国家的な市民権(都市市民権)と上位国家的な市民権(ヨーロッパ連合市民権)或いは二重国籍(中南米の一部)など、脱国家化が進み、多様な市民権が登場するようになった。そこで特に本研究は、小説『ナマステ』に表れているこのような「脱領土化」と国家主権の「再領土化」の拮抗過程に注目しながら、韓国の「雇用許可制」に焦点を合わせ、「上からの再領土化企画」(未登録移住労働者の強制追放)と「下からの再領土化企画」(民主的な反復による法生産的政治学・柔軟な国境化)を究明している。普遍的な人権に基づいた「国家単位の再領土化」と、トランス国家的な「下からの地域(東アジア)市民権」についても共に考察している。
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