研究課題/領域番号 |
22520379
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
申 明直 熊本学園大学, 外国語学部, 教授 (50389524)
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キーワード | ガリボン / 脱領土化 / 再領土化 / 朝鮮族 / 超国家的 / ローカル / 少数民族集団居住 / 領土主権 |
研究概要 |
2010年度は、(1)先ず韓国の都市空間に存在している植民地性-都市空間の二重性を、安夕影と岡本一平の作品に表れている植民地近代の「同一性と非同一性」を通して探り、(2)ネパールから韓国への移住労働者をはじめとする未登録移住労働者問題を描いた小説『ナマステ』に現われていた「脱領土化」問題と、この問題を解決するために試みられていた国家主権の「再領土化」について考察し、グローバル空間化における新たな領土主権について探ってみた。 今年度は、まず2010年度に行った研究発表内容を論文としてまとめることができた。また、ソウルのガリボン空間を描いた三つの小説と一つの映画を通して、ガリボン空間がどのようにして70年代の女工による「領土化」、87システム以後進んでいた「脱領土化」、そして2000年代前後からの中国朝鮮族による「再領土化」を遂げたのかを探ってみた。 特に、87年以後における中国朝鮮族によるガリボンの再領土化過程は、三つの層位、即ち超国家・国家・ローカルの層位から考察する必要がある。従来はガリボンという都市空間を国家層位からのみ分析したケースが多いからである。87体制以後のガリボン空間を「超国家的(transnational)」層位から探ってみるとき問題になるのは、「超国家的家族ネットワーク」(特に女性ネットワーク)である。 「国家」層位からの再領土化(国家単位の関連法律の制定等)は、朝鮮族の不法滞在環境と直結し、小説「ガリボンの羊串」に登場する暴力組織のようにゲットー化や朝鮮族だけの専有空間化に繋がっている。 「ローカル」層位から探ってみると、ガリボン空間は臨時的・流動的少数民族集団居住地化することが分かった。中国への逆移住・ローカル単位の都市政策が臨時的・流動的という特徴を規定する。今回の研究によって、国家単位だけでなく超国家・ローカル単位の新たな「領土主権」の必要性と地域住民との疎通(親密性)の必要性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネパールから韓国への移住労働者をはじめとする未登録移住労働者問題を描いた小説『ナマステ』に表れていた「脱領土化」問題と、この問題を解決するために試みられていた国家主権の「再領土化」、グローバル空間化における新たな領土主権について探ってみた。また、ソウルのガリボン空間を描いた三つの小説と一つの映画を通して、ガリボン空間がどのようにして70年代の女工による「領土化」、87システム以後進んでいた「脱領土化」、そして2000年代前後からの中国朝鮮族による「再領土化」を遂げたのかを、超国家・国家・ローカルという三つの層位から考察した。このように当初計画していた中国と東南アジアから韓国への移住小説における都市空間研究は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していた中国と東南アジアから韓国への移住小説における都市空間研究はある程度分析が進んでいるが、問題は移住が発生する前のローカル空間についての分析であろう。この分析のため、先ず韓国の小説に表れているローカルコミュニティ空間についての通時的・共時的分析を行う予定である。なお、超国家・国家・ローカルレベルにおける移住空間についての分析、特に戦後の在日コリアンの空間を注目する必要がある。戦後の小説を通してこれらの空間分析を行いたい。
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