今年度は、(1) 韓国の許文日の小説「自主村」の背景になっている共同耕作契を通した理想的な農村空間に関する論文「協働共同体とフォルケホイスコーレ」を通して、韓国の移住労働者と共に作っていく京畿道安山の理想的な都市空間「国境なき村」との比較を行った。韓国の小説「自主村」の背景になっている協働論は、日本の賀川豊彦、杉山元治郎、西欧のロバートオーエン、フーリエの協働共同体論と繋がっており、近代以来の代案空間論としての意味を持っている。 (2) 研究の最終年度の実施計画であった、戦後の在日コリアンの空間と領土主権との比較を通した現代韓国のグローバル空間の性格と領土主権についての考察である。2012年8月の日韓共同研究ワークショップと2013年2月の国際学術シンポジウムを経て発表した論文「在日コリアンと多国家市民権」は、在日コリアン小説家である梁石日の小説を映画化した『血と骨』と『月はどっち出ている』、梁ヨンヒの映画『ディア・ピョンヤン』を素材として考察したものである。 論文では、移住による主権と領土の不一致、即ち主権と領土の矛盾を解決するため、戦後在日コリアンがどのような努力を傾けてきたかを探った。主権と領土の矛盾を解決するための努力の一つは帰還・帰国することで、もう一つは失われていた権利と責務を永住の領土である日本で実現することである。矛盾の解決は、前者から後者への転換によって図れている。即ち「国民:単一国家単一民族論」から「市民:多国家市民論」への転換である。在日コリアンの一部は、最近韓国での投票権を行使したが、これは領土と主権の矛盾を解決しようとする国家の自救策であり、多国家市民を認める一現象ともいえる。韓国への移住と定着を描いた小説に現れている都市空間の深さ及び幅の拡張との関連性も探ってみられる。
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