研究課題/領域番号 |
22520380
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研究機関 | 北海道武蔵女子短期大学 |
研究代表者 |
榊 和良 北海道武蔵女子短期大学, 教養学科, 講師 (00441973)
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キーワード | インド思想史 / インド・イスラーム / ペルシア語訳 / 写本 / 国際情報交流 / ロマンス叙事詩 / ヨーガ / シャッターリー教団 |
研究概要 |
平成23年度の研究活動は、国内・国際学会での発表と意見交換、およびインド国内における写本資料調査・閲覧とをおこなった。日本宗教学会第70回学術大会において「スーフィー文学におけるシンボリズムとナータ・ヨーガ」と題して発表した。インド・スーフィー・ロマンス叙事詩のひとつとして知られる『マドゥマーラティー』に関して、作者マンジャンがインドにおけるスーフィー教団の中でもナータ・ヨーガに通じ『アムリタ・クンダ』を重訳したムハンマド・ガウスが属するシャッターリー教団のスーフィーであり、ナータ・ヨーガの実践により獲得される最高実在への消融(ラヤ)がシャッターリー教団のスーフィー修道論の階梯に沿って愛の物語としてシンボリックに語られていることなどを分析した。平成23年12月19日から平成24年1月3日までのインド国内における写本資料調査では、Andhra Pradesh Government Oriental Library and Research Institute,Maulana Azad Library(AMU),Indira Gandhi National Centre for the Artsなどを訪問。修道者のセクトについて紹介したペルシア語写本、『アムリタ・クンダ』のウルドゥー語訳写本などを閲覧・複写依頼を行い、翻訳文献研究のセミナー開催の可能性を探り、サンスクリット古典のペルシア語訳の新たな刊本を入手した。2012年1月5日から10日までニューデリーで開催された15th World Sanskrit Conferenceにおいては、Kayasthas: Translators of Sanskrit Classics into Persianと題して、サンスクリット古典のペルシア語訳者として登場してきたヒンドゥーの書記階級カーヤスタたちに焦点をあてて、本研究の中心となるKhulasa al-Khulasaをまとめたデーヴィー・ダースというカーヤスタが、ヒンドゥー教徒としてのアイデンティティをもちつつ、ムスリム宮廷に仕える書記として翻訳とヨーガの修道論をどのようにとらえているかを明らかにした。会議では、ナータ派ヨーガ文献に関するサンスクリット写本の現状について専門家と意見交換し資料提供できたことが成果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究史の整理、翻訳文献のリストはほぼ完成し、Amrtakundaの諸言語による翻案文献資料やSaratattvaの二つの写本については入手できたが、Saratattvaの残る1写本が修復中であるという理由で参照できていないために他の二写本との校合ができない状態にある。一方で、カーヤスタに関して、カーヤスタの子弟のための教則本の新しい資料が発見できたので、当初の見込み以上にカーヤスタ研究を広げることが可能になった。サンスクリット語によるペルシア語教則本や辞書は、入手できたものが少ない。2011年度の成果の一部を発表した論文を含む英語論文集の発行が、編集者側の事情で遅れて年度内に出版に至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
翻訳文献以外のヨーガの実践やセクトに関して言及したペルシア語文献から、苦行者集団のリストを作成中であり、翻訳文献のリストに加える。修復が未完の1本を除いて、Saratattvaの二つの写本を校合して、そこにおけるAmrtakundaの翻案部と、Amrtakundaのアラビア語訳、ペルシア語訳、ウルドゥー語訳そしてナータ派サンスクリット文献との対応を示し、翻案者の解釈を分析する。Saratattvaの示すインドの学問体系とインドの伝統的学問体系、イスラームの伝統的知の体系、カーヤスタが学ぶべきとされた学問体系の対比を行い、Saratattvaの性格を明らかにする。カーヤスタの教育について、翻訳文献とのかかわりから発表したものを英語論文として公表する。遅れているサンスクリット語によるペルシア語教則本や辞書の収集を進め、基礎研究の資料整備に役立てる。サンスクリット古典のペルシア語訳文献史において、翻訳文献の内容と質に関して、翻訳の担い手の変化により翻訳のあり方にどのような変容が生じたのかを、Saratattvaの事例から明らかにして、3年間の研究成果を報告書としてまとめる。
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