この研究はサンスクリット語からペルシア語への翻訳文献史を構築し、その翻訳の担い手・対象・スタイル・質を探究し、その歴史的意義を明らかにするための基礎的研究である。既存のイスラーム系言語の刊本や写本の目録類の検討に加えて、インド亜大陸での写本資料調査・複写収集を行い、ペルシア語に翻訳された文献リストを作成した。この知見をもとに、近年研究代表者が発見したデーヴィー・ダースという一人のカーヤスタによって17世紀半ばに編まれた『真理の精髄』と題された翻訳・翻案撰文集を精査し、そこに含まれる『アムリタ・クンダ』の翻案である『生命の海』の解釈の仕方を分析した。その結果、翻訳者としてのカーヤスタ階級が翻訳史に新たな段階を生み出したことを明らかにした。
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