本研究は、フランス語・スペイン語・イタリア語という三つのロマンス諸語の冠詞の分布を対照的に考察することを目的としており、初年度はフランス語とスペイン語の冠詞に関するデータを収集し分析を進める計画であった。特に、様々な文脈において生起する可能性のある不定冠詞にまず焦点を定め、フランス語原典とスペイン語訳、スペイン語原典とフランス語訳、他言語原典のフランス語訳とスペイン語訳を資料体として用い、その分布を詳細に検討した。その中で、他の冠詞との関係、とりわけ無冠詞名詞句との関係に重きを置いて考察を進めた。 その結果、フランス語においては無冠詞がもつ機能がかなり制約されているのに対し、スペイン語においてはあらゆる文法機能において無冠詞が果たす役割がかなり広い範囲に及ぶことが明らかになった。この差は、同じロマンス諸語に属する言語として予想されるものよりもかなり大きなものであると言える。更に、両言語において不定冠詞と部分冠詞の機能分化がかなり明瞭であるのに対し、不定冠詞と定冠詞の機能は一般に予想されるほど相反するものではなく、連続的なスケールで捉えられるべき側面も見出されるということも示された。また、両言語において文法機能ごとの不定冠詞の分布に大きな差が観察されなかったことから、不定冠詞自体の機能に関しては、両言語においてかなり共通しているということが再確認されたと言える。 時間的制約から他の冠詞、特に部分冠詞を軸にした分布の検討を今年度内に終えることができなかったが、早急に成果を発表すべく分析を進めている。
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