本年度は、まず、印欧諸語における名詞・限定詞・形容詞の屈折パラダイムを記述するために必要な制約群を、パラダイムを構成する格・数・ジェンダーの3つの次元毎に導いた。具体的には、3つの有標性階層(格階層・数階層・ジェンダー階層)から導いた有標性制約とそれらに拮抗する2種類の忠実性制約を提案し、ドイツ語、古英語、古フリジア語等に代表されるゲルマン諸語のパラダイムの一部を上記の有標性制約と忠実性制約の制約ランキングから派生した。特に、ゲルマン諸語の屈折パラダイムに共通して観察される融合(格融合、ジェンダー融合)及び現代ドイツ語の形容詞のパラダイムにおける強変化と弱変化の相違も、形容詞と共起する冠詞類及び名詞の屈折との相互作用から導けることを示した。 屈折パラダイムを記述する有標性制約、忠実性制約を提案する傍ら、ゲルマン諸語にとどまらず、ロマンス諸語、スラヴ諸語における屈折パラダイムのデータを収集・整理したが、その過程で多くの印欧諸語の屈折パラダイムに共通する融合の諸パターンを発見すると同時に、(ほぼ)普遍的に妥当すると思われる格階層、数階層と対照的に、ジェンダーの有標性階層には、印欧諸語の中でも相違があるため、その相違に対応するように、ジェンダーに関する有標性制約を改変した。 なお、本年度は、ドイツ語の屈折パラダイムに関する2件の海外学会発表(ハンガリー、ドイツ)及び古英語の指示代名詞の屈折パラダイムに関する1件の国内学会発表を行い、国内学会予稿集及び海外学会論文集に各1本の論文を発表した。
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