研究概要 |
本年度の主要な目標の一つは、印欧諸語の名詞・限定詞・形容詞の曲用パラダイムを、特にこれまで手を付けることができなかったバルト・スラヴ諸語のパラダイムのデータベース化を終えることであったが、その作業はまだ続行中である。 その作業と平行して、名詞類の曲用パラダイム研究の基礎作業として、平成23年度に開始したロシア語の格システムの体系化の作業を続行した。具体的には、平成23年度には属格が目的語を標示する用法の説明を提示したが、本年度は「第二与格」と呼ばれる、ロシア語の不定詞節に生じる一部の二次述語(sam "alone", odin "-self")が一部の生起環境で与格標示を受ける現象の説明を提示した。上記の二次述語は,単文及び主語コントロール動詞の不定詞補部内に生起する場合は修飾対象の名詞と同じ主格標示を受けるが,目的語コントロール動詞の不定詞補部に生じる場合は与格標示を受ける。 この一見特異な与格標示を,独立に必要とされる節の三層構造(内核・中核・節)、格標識の有標性階層としての格階層(主格<与格<対格/能格<属格)、格標識を与える領域として中核を指定する言語(例:日本語,アイスランド語)と節を指定する言語(例:英語、ロシア語)があるという仮定に基づいて説明した。格付与規則として、役割・指示文法で提案されている格付与規則を想定し、目的語コントロール構文の不定詞補部の意味上の主語に主格標識が与えられないため、最後の手段として(デフォルト格として)主格に次いで無標的な与格標識が与えられ、その与格標識が一定の局所的領域で作動する格の一致に基づいて二次述語に与えられるという説明を提案した。
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