研究課題/領域番号 |
22520393
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
伊藤 さとみ お茶の水女子大学, 大学院・人間文化創成科学研究科, 准教授 (60347127)
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キーワード | 言語学 / 中国語 / 形式意味論 / 作用域 / 論理演算子 |
研究概要 |
本年度は、"or"と"and"の非対称性について、理論的な考察を行った。この二つは、ともに命題を連結する点では同じ働きをするが、真理条件は異なっている。p or qが真になる条件は、pとqのうち、両方またはどちらか一方が真であるのに対し、p and qが真になる条件はpとqのうち両方が真であることである。にもかかわらず、一部の譲歩節においては、両者が交代しても、意味が変わらない現象が観察される。 Minimal change semanticsの観点からは、条件文の真理条件は、「先行節が真であるような可能世界において、後行節が真である」と定義される。これによると、一部の譲歩節"if p or not p,q"のような場合は、先行節がすべての世界を表しているため、条件文全体としての真理値は、後件qの真理値に依存している。これは、「どんな状況下においてもqが成り立つ」という意味を適切に反映していると言える。一方、"if p and not p,q"という形式の場合、前件"p and not p"は必ず偽になり、この条件を満たすような可能世界は存在しないので、条件文そのものが成立しない。そこで、この場合の"and"は命題ではなく、その命題を真にするような可能世界を結びつける働きをしていると考えられる。言い換えると、"or"が命題の結合詞としてしか働かないのに対し、"and"の方は、より広い用法を持つということである。このことは、"or"が文を結合させる場合であっても、限られた作用域しか持たないのに対し、"and"の作用域が無限と言っていいほど拡大できること、また、さまざまな言語において"and"が談話を結びつけるために使われる接続詞として使用頻度が高いことから裏付けられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国語の"and"と"or'の出現分布、環境に応じた意味の変化などが明らかになり、両者の基本的な意味の違いについて理論的考察を終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
"and"と"or"の非対称性について、より広い言語のデータを集め、否定詞との相互作用や、条件節という領域における振る舞いの違いについて考察を進める。そのうえで、中国語について立てた仮説、説明が当てはまるかどうかを検証し、必要な修正を行う。また、これまでの研究では、"and"と"or"それぞれが結びつける対象に違いがあることが明らかになったが、両者の間の関係も明らかにし、従来の論理学で、この二つの接続詞が対をなすものとして当然のように扱われてきたのはなぜなのかも考察する。さらに、自然言語におけるこの両者を表わす表現は多岐に渡るため、副詞や助詞なども射程に入れたデータを収集と考察を進める。
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