研究課題/領域番号 |
22520394
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
呉人 惠 富山大学, 人文学部, 教授 (90223106)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | コリャーク語 / 形容詞 / 属性叙述 / チュクチ・カムチャツカ語族 / チュクチ語 / アリュートル語 / イテリメン語 |
研究概要 |
コリャーク語の文法記述の中でも,形態論・統語論にまたがる,とりわけ重要な課題として品詞分類の画定があげられる。なかでも特に重要なカギを握るのが,名詞と動詞の中間的性質をもつ「形容詞」の問題である。本研究では、シベリア北東部に分布するコリャーク語(チュクチ・カムチャツカ語族)を対象に、品詞としての認定が最も難しいとされる形容詞を取り上げ研究を進めてきた。平成24年度以前の研究では,次の点が明らかになっている。 ① コリャーク語で従来「形容詞」と呼ばれてきた形式は,いわゆる一般言語学的意味での形容詞とはその性質,機能において異なる点があり,むしろ,「属性叙述」形式としてとらえるべきである。② この形式は,チュクチ語では動詞の屈折形式のひとつとしても用いられるが,コリャーク語では形態的には,むしろ名詞に近いふるまいをするものである。 平成24年度は,コリャーク語に特化して明らかになった以上の知見にもとづき,研究の範囲をチュクチ・カムチャツカ語族の他言語にも広げ,史的形容詞研究の基礎作りをおこなった。具体的には,(1) 平成22,23年度に明らかにされたコリャーク語のプロトタイプ的形容詞の意味,形態,文法機能に関して,同系のチュクチ語,アリュートル語,イテリメン語と比較検討をおこない,語族における形容詞の原体系の再構築の基礎作りをした。(2) 属性叙述形式は,とりわけ他動詞語幹から派生される際に,逆受動化あるいは異常構文を引き起こすことがわかってきた。具体的には,属性叙述文は他動詞語幹から派生されても自動詞的なふるまいをする。そこで,自動詞と他動詞の形態的対応に関する整理分析を能格的特性についても視野にいれつつおこなった。以上の研究は、平成25年度におこなう類型論的研究の基礎になりうるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究発足当初の計画として,コリャーク語のプロトタイプ的形容詞の本性を明らかにするために,1) データの網羅的収集と意味タイプの整理,2)動詞の屈折体系における位置づけの解明,3) 史的形容詞研究の基礎作り,4) 言語類型論的位置づけを目標にかかげ,研究を進めてきた。1)から4)は,各研究年度の研究計画に対応したものであるが,これまで,1)から3)まで順調に研究が遂行され,コリャーク語学のみならず一般言語学にも資しうるべき十分な成果が上がってきている。とりわけ,平成24年度は同系の他言語の研究者との連携を図り,研究会をおこなうなどして,情報交換にも努めたおかげで,各言語間の「形容詞」の類似点,相違点が明らかになった。また,一方で,コリャーク語に特化してみるならば,形容詞からさらに動詞へと研究の範囲が拡大深化してきた。この点もまた平成24年の重要な成果のひとつと考えることができる。以上の点から,平成24年度の研究は「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,申請者が現在,進めているコリャーク語の文法記述における品詞分類を精密化を視野に入れたものである。品詞分類の中でも形態論・統語論にまたがるとりわけ重要なカギを握るものとして,これまで解明を進めてきた名詞と動詞の中間的性質をもつ従来の「形容詞」すなわち,属性叙述形式がある。これまでの3年間にわたる研究において,その基本的な性格と同系他言語との比較検討は一応見通しが立った。そこで,今年度は属性叙述研究の類型的な位置づけを画定したい。 加えて,品詞分類において属性叙述形式と同様に,画定の難しいものとして,動詞から名詞を派生する名詞化現象がある。そこで,本年度は属性叙述現象に加え,名詞化現象にも焦点をあて,両者の形態的・統語的特徴を比較検討することにより,品詞分類の画定へとさらに歩を進めるとともに,次への研究につなげたいと考える。
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