本研究は、日英語の自然発話を収録したコンパラブル対話コーパスを利用して、対話に特化した共参照関係(同一指示関係)のアノテーションスキーマによるタグ付与と、ムーブ(move) による構造(Carletta et al.: 1997)を利用した機能分析をおこない、対話コミュニケーションのプロセスを明らかにすることを目標としてきた。そして、この成果を元に、対話理解プロセスモデルを提案し、さらにそのモデルを基盤とした対話型言語教材の開発を目指してきた。 3年間にわたり、日英対話コーパスを利用した分析から得られた一つの重要な成果は、聞き手役割を軸とした対話理解モデルを提案できたことである。具体的内容としては、(1)話し手の発話と聞き手の発話を区別して、発話機能分析をおこない、典型的に認定(acknowledge)として一様に表記される傾向があるあいづち表現を聞き手発話としてとらえ直した。(2)この認定ムーブと他のムーブとのつながりを分析し、発話連鎖のプロセスや相互行為の質的な違いを記述することが可能となった。(3)その結果、どんなパターンの発話連鎖がどのタイミングで出現し、対話進行においてどのような聞き手役割が対話の進行に有効であるかについて、一定のパターンを複数抽出することができた。 同時に、このモデルの検証をおこないながら、対話型言語教育に活かすための実用的教材の開発研究を進めた。 研究の意義としては、地図課題対話データが現実の発話に一般化できる部分を活用し、対話教育的視点から教材として必要な項目を抽出できたことである。重要な点は、こうした項目を整理し、対話的事例を活かした外国語学習教材やコミュニケーション教材の基礎となる内容を具体的なデータで検証できることである。この研究成果は、現在、研究報告書として纏めており、発表の窓口として、ウェブでの公開を計画している。
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