研究概要 |
平成24年度は、日本語の関係節も名詞句削除を認可するというTakahashi (2011)の主張を詳細に検討した。Takahashiが挙げている名詞句削除のデータでは、関係節が常に「の」を伴っている。本課題では、この「の」が代名詞の「の」であり、[NP [関係節][NP の]]の構造を持つことを明らかにした。名詞句削除は通常、先行詞との統語的もしくは意味的同一性が要求されるが、Takahashiの挙げているデータでは先行詞が存在しない場合でも削除が認可される場合がある。同一性が保たれずに削除操作が行われることはないので、Takahashiのデータは削除操作が適用された結果であるとは分析できないことになる。 また、「数詞+ずつ」を関係節として分析するMiyamoto (2009)のもとで、本課題は「数詞+ずつ+の」が [[数詞+ずつ]-の [NP 関係節主要部]]に名詞句削除が適用された構造を持つとは分析できない例を示した。たとえば、(1a, b)において、(1a)のみ名詞句内分配読み (Nominal-Internal Distributive Interpretation)を許すのである。 (1)a. [DP [[5本ずつ]-の 鉛筆]-の [NP 返品]]を決めた。 b. [DP [5本ずつ]-の [NP 返品]]を決めた。 さらに、Kamio (1983)が示唆した「代名詞の「の」は抽象名詞を指せない」という制約に「unit」の概念を導入することにより、本課題の主張に対する反例のように見える例文も問題にならないことを示した。
|