本研究の目的は、生成文法理論の極小主義プログラムにおいて問題となる、統語構造及びその線状化は、いかにあるべきかを学際的に究明することを全体構想とし、数学・情報科学・計算機科学等の分野で確立されているグラフ理論を用いて、言語理論に依存しない線状化方式を確立し、そのうえで問題となるグラフ理論的「木」と従来捉えられてきた統語構造を見直すことにあるが、最終年度となる平成24年度は、前年度までの成果を基に、グラフ理論での巡回探索アルゴリズムの理論的研究と、多重支配を許す統語構造の経験的・理論的研究を行った。 これまで生成文法理論による分析から経験的に提案されてきた多重支配統語構造は、グラフ理論的有向無閉路グラフ(Directed Acyclic Graph)と看做せるため、巡回探索アルゴリズムとして位相幾何学的ソート法(topological ordering)の適用可能性を検討したが、グラフ理論的には順序付けが一意には決定できず、経験的に個別言語に依存するパラメター化が必要であること、またパラメター化を規定すれば多重支配されている節点を単独支配節点に刈込み、根付有向「木」に還元することにより、非平面無順序「木」としての素句構造(Bare Phrase Structure)でも深度優先探索による巡回走査法が適用可能であり、パラメータ値の設定は移動現象の顕在/潜在性の差異を具現化し、また省略現象における照応方向性と相補関係にあり、日本語のように調和的に主辞末尾で顕在的疑問詞移動が必須でない言語では、調和的に主辞先頭で顕在的疑問詞移動が必須である英語での右枝節点繰り上げ構文に構造的に対応する構文では前方省略が働いている可能性があることを究明した。
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