研究課題/領域番号 |
22520402
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
原田 なをみ 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (10374109)
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キーワード | 言語学 / 生成文法理論 / 統語論 / 日本語 / 格 |
研究概要 |
平成23年度までに採取したデータに基づき、抽象格を用いる英語と形態格を用いる日本語において、格付与の領域である動詞句の構造の検討が容易な二重目的語構文(例 太郎が花子に花束をあげた)の構造を詳細に分析した。その結果、以下の点が明らかになった。 (1)日本語では従来英語と異なり、間接目的語「花子に」より直接目的語「花束を」が動詞からより遠い、統語構造上では上の位置に生成されるとされてきたが、情報構造・再帰代名詞の照応・数量詞の解釈から、日本語は英語同様、間接目的語「花子に」は直接目的語「花束を」より動詞に近い、統語構造上では下の位置に生成される。 (2)日本語で一見英語と異なる動詞句の構造を持つように見えるのは、日本語に格助詞「ニ」が、名詞句の認可をするのに十分な統語素性を備えていないことに由来する。 (3)日本語の二格に相当する語彙項目は、イラン語群のうちトルコで用いられているザザキ語などの言語の名詞句内の修飾語に付与されるezafe助詞と同じ働きを持つ。 (1)-(3)に基づき、複他動詞を含む動詞の普遍的な構造として、動詞と間接目的語が階層構造の一番内側・下の位置に生じ、直接目的語はその動詞句の外側・上部に導入される構造を提案した。日本語ではさらに形態格(格助詞)「ニ」の性質上、名詞句の格素性を十分に認可できないことから、「ニ」格が付与される間接目的語が時制辞による格の認可を受けるために、統語構造の上部に義務的に移動するために英語との線形順序の違いが生じる。すなわち言語間の項の出現の順番の表面上の違いに、抽象格と形態格のどちらを用いるかという違いが関与していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本語・英語・イラン語群の諸語を比較検討した成果を論文にまとめ、学術雑誌に投稿できたため(現在査読中)。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの成果に基づき提案した複他動詞文を含む動詞句の構造を仮定すると、下記の問題が生じる。 (a)「太郎が花子に会った」のように、直接目的語に「ニ」格が付与される事例はどのように分析されるか。 (b)従来の研究における「ニ」格が付与される項の統語構造上の位置に対して、どのような説明をするのか。 (a)に対しては、直接目的語に付与される「ニ」格は意味役割と密接に関連している内在格であるという仮説を取り検証していく。また(b)に対しては、情報構造・再帰代名詞の照応・数量詞の解釈などの統語テストを用い、場所句に「ニ」格が付与されている例(「学校に」)などの統語構造上の位置を解明していく。
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