研究概要 |
山口方言におけるアクセントを担う単位が,モーラからシラブルへ変容しているかどうかを確認するために,山口市周辺にのみ居住歴を持つ若年層16名・老年層16名が,特殊モーラおよび二重母音の副母音を含む語を産出する際にアクセント核を担うことができるか否かについての分析を行った。 その結果,老年層に比べて若年層は,特殊モーラおよび二重母音の副母音にアクセント核を置く頻度が有意に少ないことがわかった。老年層と若年層の2つの世代で,4種類の特殊モーラがアクセント核を担うかどうかの頻度を予測する決定木分析を行った。特殊モーラがアクセント核を置くかどうかを最も強く予測していたのは世代であり,世代間の差ははっきりとしていた。世代間の差を生じさせた原因については,今後考察する予定である。 老年層の間で,アクセント核が置かれる頻度は特殊モーラの種類によって大きく異なっており,多い順に/J/>/R/=/N/>/Q/であった。若年層の間で,特殊モーラにアクセント核が置かれる頻度は少なかった。少ない中でも,4種類の特殊モーラにアクセント核を置く頻度は2つに分かれ,/J/=/N/</R/=/Q/となった。今後,特殊モーラの種類の違いとアクセント核の付与の関係を深く考察する必要が生じた。 発音持続時間については,撥音については,若年層は老年層に比べて単語に占める撥音の比率,撥音を含む同一トラブル内における撥音の比率は共に有意に小さくなっていた。促音や二重母音の副母音についても,今後測定を行う必要がある。
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