研究概要 |
英語と日本語の音韻的・音声的な差異の影響により、日本人英語話者の英語発話には日本人独特の特徴が見られる。その要因の一つが、音節・リズムの違いである。モーラリズムである日本語と異なり、英語の音節や強勢は顎の上下運動(開口度)とタイミングに密接に関連している。これまでの研究によれば、英語の調音における個々の音節での顎の上下開口度は、音節の長さに直接的に関連している(e.g., Erickson 1998,2002,2003)。アメリカ英語のリズム構造の特徴として、強勢のある音節が長く、音節が「顎の上下開口度の強弱パターン」に基づいてグループ化される点が挙げられる。この顎の上下開口度は、音響音声学的にはF2とF1の差異、つまりF2マイナスF1としてあらわされる(e.g., Erickson,2004,2010,2011)。本研究の第一年目にあたる2010年度に我々が集めた調音データ(EMA=Electro-Magnetic Articulographによるデータ収集;北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究所に於いて英語母語話者・日本人英語話者の顎、舌、唇の動作を測定)および音響データでは、英語発話における強勢パターンについて以下のことが示唆された:(1)英語母語話者の発話データと異なり、日本人英語話者の発話においては交互であるべき顎上下開口度の強弱パターンが一定していない;(2)日本人英語話者の発話では顎の上下開口度がもっとも大きいのは、強調/非強調の対比が見られるべき単音節語ではなく、1センテンス中の3つ目から最後にかけての単音節語である(Erickson, D., Shibuya, Y., & Suemitsu, A.(2011). American English Rhythm. The 2011 Symposium on Modeling of Speech & Audio-Visual Mechanism, Feb.20-21,2011(Kanazawa, Japan)。本研究の最終目的として掲げたように、これらの結果を日本人英語話者のリズムや強勢習得のための教育に活かしていく方法を開発するために、今後はさらにデータを収集し分析・検討していく予定である。
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