研究課題/領域番号 |
22520415
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研究機関 | 大阪保健医療大学 |
研究代表者 |
松井 理直 大阪保健医療大学, 保健医療学部, 教授 (00273714)
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キーワード | 関連性理論 / 条件文 / 文理解実験 / 論理学 / 確率モデル / 連言 / 音韻情報 / オンライン処理 |
研究概要 |
昨年度の研究に引き続き、関連性の認知原理の機能を、日常的推論およびその言語的表現である条件文の性質から探る研究を行った。日本語の条件文は注目すべき複数の形式を持っており(有田1993,益岡2000,坂原1985ほか)、関連性の認知原理に関する実証研究を行う上で最もよい題材の一つである。例えば、「景気が{回復すれば/回復すると/回復したら/回復するなら}、生活は少し楽になる」という表現は、いずれも論理的にはほぼ等価な条件文と思われる。しかし、「君が行くなら、僕も行くよ」という自然な文に対し、「*君が行くと、僕も行くよ」は不適切な表現である。このことは、日常推論が論理的含意を超える性質を持っていることを示唆している。 本年度は、とくに「ト形」の条件文について、セルフペースト・リーディング・タスクおよび文理解確認実験を用いた実験を集中的に行い、「ト形」の条件文理解が論理学における「連言」計算の延長として行われていること、またオンライン処理として一種の再解釈が行われていることを確認した。このオンライン処理の過程は、「AならB」という条件表現を使った場合は誘導推論が生じ易いのに対し、「AするとB」という表現からは誘導推論が生じにくいこともうまく説明する。また、これらの結果を回帰係数を使った数理モデルとLoose Symmetry Modelを使ったモデルによってシミュレートし、前者がより妥当なモデルであることを論じた。 また、他にイントネーションや強調といったプロソディの影響についても研究を行った。これは「ト形」の理解について、特に局所的な連言計算と命題間をつなぐ非局所的な連言計算の違いに一定の影響を及ぼすことが分かった。この実験結果は、統語・意味処理と音韻処理のインターフェースを考える上でも興味深い点であり、次年度もこの相互作用について継続して研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
条件文の文理解実験により、認知的関連性および日常推論の特質を説明するという当初の計画通りの研究が実施できている。特に、「ト形」と他の条件文形式の違いがどのような文理解過程から生じるかが明らかになってきた。ただし、「レバ形」「ナラ形」の違いについては、心理実験で有意差が見られておらず、今後検討の必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
認知的関連性のモデル化については、研究計画で考えていた回帰係数を用いた数理モデルのほかに、いくつかの計算モデルが適用できることが分かった。特に、推論の計算モデルとして提案されているLoose Symmetry Modelは、認知的関連性を考える上でも示唆に富んだモデルであり、計算量の面からも妥当なモデルであるため、今後詳細な見当が必要である。平成23年度の研究では、Loose Symmnetry Modelが妥当に働かないオンライン処理もあることが分かったが、これを克服する手法も考えられる。平成24年度では、こうしたモデル間の比較検討も詳細に行う予定である。
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