研究概要 |
今年度の研究は,まず1点目として,八重山地方の敬語授受動詞タボールシに受け手主語用法が確実にあるか否かの検証作業を行った。タボールンの意味を話者は「下さる・頂く」と説明するため,与え手主語「先生が本を下さった」でも,受け手主語「私が本を頂いた」でも使用可能なはずである。しかし,「私が」で質問文を作成すると,話者はタボーラリンを選択する。調査を重ねた結果,タボーラリンの方が高い待遇度を持っているため,タボールンを選択しないが,受け手主語用法はあることが明らかとなった。与え手主語と受け手主語の両方の用法を持つ授受動詞は,現代共通語にはないが,室町時代の授受動詞「給はる」にはある。八重山地方の授受動詞体系は,現代共通語の人称優先の文法体系ではなく,古代語のように敬意を優先させる文法体系であると言える。さらに,八重山地方でも室町時代でも敬語の授受動詞では与え手を奪格で表す主格非明示の用法を持つことを指摘した。2点目に二方面敬語に関する調査を行った。「謙譲語+尊敬語」の組み合わせは,共通語では通常用いない。共通語では非文法的と判断される「主語>補語」の「さしあげなさる」は、八重山地方では「知事が市長に花束をさしあげなさる」のように使用可能である。この仕組みは,謙譲語Aの文法性の問題ではないかと考え,さらに調査を進めている。また,3点目として指示詞の調査のために談話資料の作成をした。これまでの調査で,文脈指示詞はu系指示詞(共通語でのソ系指示詞に相当する)であること,共通語ではア系指示詞を取る記憶指示,例えば「あれは、楽しかったね」のような場合でも,u系を用いることは明らかにできた。しかし,石垣宮良方書の指示詞ku/u/ka系が何の対立によっているのかまだ未解決のままである。そのため,引き続き来年度の課題とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
授受動詞と敬語に関しては,これまでのデータから文法体系が予測でき,順調に研究が進んでいる。しかし,指示に関しては成果が遅れている。談話資料を作成し,そこでの使用状況から文法体系を予測して,詳細な記述をしようとしたが,予測がいくつも外れる例が生じている。よって,予測を練り直す必要が出てきた。
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