ポリネシア諸語について、タヒチ語、ハワイ語、サモア語を中心として分析を進めた結果、以下のような共通点及び相違点及び数詞体系の変遷が示された。 ヨーロッパとの接触よりも前の時代から、これらの言語はかなり大きな数まで表す数詞を持っており、そのシステムでは十の累乗それぞれに独立した数詞を用いていた。これらの大きな数を表す数詞は、他の数詞と組み合わせて具体的な細かい数を表すというよりも単独で大雑把な数を表すのに使われる傾向が強かったが、ハワイ語では19世紀頃までかなり具体的な大きな数も表していた。 西洋との接触後は多くの言語で百以上の大きな単位を英語からの借用語で表すようになったが、サモア語等では、借用ではない伝統的な数詞で百以上の単位を表していた。しかしながら、英語からの借用数詞を用いる言語でも伝統的な数詞を用いる言語でも、数詞の区切り方は、十の累乗それぞれに独立した数詞を用いる伝統的な方式から、千を一つの区切りとして三桁ずつまとめる西洋式の方法に置き換わった。 19世紀の翻訳聖書は伝統的システムと現代システムの中間に位置していることが示された。そこで用いられる数詞は現代と同様(サモア語では伝統的数詞、ハワイ語・タヒチ語では英語からの借用)であるが、区切り方は、千の位で三桁ずつ区切る西洋の方式と、「万」を表す数詞を用いる伝統的な方式が混在していた。またそれに伴い、現代では用いられなくなった「万」を表す数詞も用いられていた。 統語的な特徴としては、小さな数を表す数詞が、名詞、動詞或いは名詞修飾語としても頻繁に用いられる一方で、百以上の大きな数を表す数詞は、伝統的には、名詞あるいは動詞としての用法が顕著で、名詞修飾語として被修飾名詞に直接付加して個数を表す用法の頻度は比較的低いものであったが、現代では他の数詞と結合して具体的な数を表す名詞修飾語としての用法の頻度も大きくなってきた。
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