研究概要 |
本年度は,南琉球でお願いしている方言話者のうちで最も高齢で,できるだけ早い調査が期待される与那国方言を集中的に調べた。まず,この方言が基本的に3型アクセントであるという先行研究の結果を確認するとともに,その間に世代間の音調変化が生じており,2つの型は文節末音節が軽音節では区別がつかなくなっていて,次に続く文節の音調で区別が現われることを明らかにし,その成果を論文として発表した(「与那国方言のアクセントと世代間変化」)。次に,先行研究ではアクセントを対象外としてきた活用形のアクセントを詳しく調べ,約100語について約20の活用形のアクセントを明らかにした(そのうちの約半分については資料集「与那国方言動詞活用形のアクセント資料」として公刊した)。その結果,A型を基本形とするものは活用形においてもA型を保持するものの,B型とC型についてはそれぞれにC型,B型が混じるという現象が見られ,系列の一貫性は見られないことが明らかになった。同じ現象は本土方言の3型アクセントである隠岐島方言の活用形にも見られる。隠岐島方言の場合,その非一貫性は本土方言の祖形から規則的アクセント変化をした結果として生じたことがすでに分かっているが,与那国方言の場合の通時的な理由は,今後さらに検討を進めていかなければならない。しかしながら,その経緯とは無関係に,活用形における系列の一貫性がN型アクセントの共時的な一般特性とは言えないことは明らかになった。これは九州の2型アクセントの考察だけからでは明らかにできない事柄である。その他,長い複合名詞には3型の枠に納まらないものもあり,それらの共時的な解釈についても考察を進めた。
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