研究概要 |
本年度はフランス語属詞動詞構文に焦点を絞っている。属詞認定そのものに問題が残っている。特に,非人称で,人称主辞名詞句が動詞の右に来る可能性がある場合である。 例えば,semblerにおいて,Luc semble[content/chanter]では,contentもchanterも属詞(同一範列)である。Luc semble chanterとIl semble que Luc chanteでは,前者sembleの助動詞的働きと属詞chanterとの間には矛盾はない(属詞動詞とは属詞の支えである。)後者では,que Luc chanteの属詞機能の認定が不可避である。(que Luc chanteが意味上の主辞であるとする設定は不可である。)両者においてsembleは属詞動詞であり,違いは,前者には主辞Lucが存在し,後者では主辞はIlが形式的にあるだけ,という点である。Il semble que Luc chanteとIl semble vrai que Luc chanteでは,後者のvraiは属詞であり,que Luc chanteは意味上の主辞。同形の前者のque Luc chanteは,属詞(=述辞)が不可欠である以上,属詞そのものである。vraiは省略しえない。 semblerに類似の動詞としてparaitreがある。違いは,paraitreには,構文に反映する二つの意味がある点である。1.「現れる」:(1)Il parait_1 une annonce au journal(⇔Une annonce parait_1 au journal),(2)Il parait_1 au journal que l'euro monte(⇔^??Que l'euro monte parait_1 au journal),2.「~のようだ」:Il Parait _2 que Luc chante. paraitreには自動詞vs属詞の緊張関係があると言える。実例でも自動詞の頻度は無視できない(自動詞:21%,属詞動詞:79%)。しかし,上例(2)のように意味上の主辞がque節である自動詞用法は皆無である。(1)のような非人称ですら1496例中2例のみであった。2.におけるque節の属詞認定に問題はありえない。 以上,構文分析における実例頻度調査の本質的重要性が明らかになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
22年度の直接目的属詞文(juger構文),属詞機能によく使われる前置詞enの分析,それに続いて23年度の属詞文(sembler, paraitre構文)の分析は順調に進んでいるが,属詞動詞の中心であるetre構文と諸構文の集大成たる基本構文型データベースの作成が少し遅れている。これと直結している非動詞文の分析も遅れている。その主たる理由は個別動詞の多量の実例分析に時間がかかることである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は基本構文型データベース構築を急ぎつつ,etre構文と非動詞文の実例分析に時間を割くことになる.構文型データベースの資料はLe Monde紙の社説に限定して言語レベルの均質性を保つようにする。etre構文の分析は資料の量的充実も考慮しつつ,種々の構文の頻度を詳細に検査する予定である。非動詞文の収集は手作業になるところが多いが,これ迄,この分野の研究は少ないので資料は量的にも充実させることを考えている。これらの分析の後,etre構文と非動詞文との関係を,特に,要素配列順の観点から詳細に検討していく(例えば,La Revolution francaise est de la→La Revolution francaise,de la→De la,la Revolution francaise)。最終的には,他動詞文の直接目的属詞文,属詞動詞文,非動詞文の間のつながり,非動詞文における属詞的要因の有無を調査して,フランス語構文の体系全体における他動性と属詞性の主たる役割を解明することを目指す。途中経過の属詞動詞文の分析は9月のヨーロッパでの学会で発表の予定である。
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