研究課題/領域番号 |
22520426
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
塩原 朝子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (30313274)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | インドネシア / スンバワ語 / バリ語 / 形態統語論 / ヴォイスシステム |
研究概要 |
昨年度まで調査を行っていない言語(ササク語)などの文献調査を行った。また、現時点で最も豊富なデータがあるスンバワ語に関して集中して調査を行った。その結果、スンバワ語に関しては、インドネシア、ジャワ語、バリ語、スンダ語などのいわゆる「インドネシアタイプ」言語とは逸脱する次のような特徴を示すことがわかった。 1 インドネシアタイプの態のシステムでUndergoer Voiceを標示する人称接辞のついた動詞形が唯一の他動詞構文として機能している。2 インドネシアタイプの態のシステムで、Actor Voiceを標示する鼻音接頭辞(Proto Malayic (Adelaar (1986, 1992))の*mAN-)が単純な自動詞を形成する接辞として機能しており、他の言語で「中動」的な内容を表す動詞を派生する接辞(Proto Malayicの*mbAr-)と重なっている。 以上の内容はShiohara (2013)にまとめた。さらに、データのある言語(バリ語、インドネシア語、スンダ語、スンバワ語)に関して、テキストを調べ、ディスコースにおける態のシステムの機能を調査した。その結果、物語などで動作主、動作の対象両方が共通する動作の連続を表す動詞連続ではUndergoer Voiceが用いられる傾向が強いことがわかった。このことはKikusawa(2000)が述べている、インドネシアタイプの態のシステムのうち、Undergoer voiceが基本的な形であるという主張を裏付けるものである。上記の二点はインドネシアタイプの態のシステムの構成要素のうち、鼻音接尾辞の付いた形が、このグループの祖形においてはテンス・アスペクトなど、態以外の機能を主として持っていたという仮説を導くものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、スンディック言語の態に関与する以下の(1)-(3)の接辞について、グループに属する言語(アチェ語、バタク語、ミナンカバウ語、マレー語(インドネシア語)、スンダ語、ジャワ語、マドゥラ語、バリ語、ササク語、スンバワ)語における機能を先行記述、あるいは、今回の研究で新しく得るデータから取り出し、一覧することを目的としている。 1 Actor Voiceを標示する鼻音接頭辞(Proto Malayic (Adelaar (1986, 1992))の*mAN-)、2 Undergoer Voiceを標示する人称接辞および受動接辞、3「中動」的な内容を表す動詞を派生する接辞(Proto Malayicの*mbAr-) これまで上記の言語に関して、ほぼ目標を達成できている。また上記の事柄に関して比較を行い、祖形の解明を試みるとともに、元の態のシステムがどのようなものであったのか考察を行うという目標もある程度達成できている。以上のことから、この研究はおおむね予定通り順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度、25年度:収集したデータに基づき、スンディックグループの言語間の比較を行い、態のシステムの発展に関する仮説の構築を試みる。また、データの収集範囲をスンディックグループ以外にも広げ、より広い視野の元、オーストロネシア諸語から現在の各言語に至るまでの歴史変化(フィリピンタイプからインドネシアタイプへの移行)のプロセスに関する仮説を立て、検証を行う。
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