今年度は研究協力者Antonia Sorienteを招聘し、広くスンディック諸語についての知見を交換した。また、新しくササク語のデータを文献資料から収集した。その結果、ササク語のいくつかの方言はスンバワ語と同様、インドネシアタイプの態のシステムを持たないことがわかった。この結果を受けて、今年度はインドネシアタイプの態のシステムを持たない言語の歴史的背景に関して研究を進めた。 スンバワ語について、Shiohara (2013)では以下の二つの仮説を示した。 (1)スンバワ語は本来インドネシアタイプの態のシステムを持っていたが、歴史のある時点でそのシステムは崩壊した。(これはおそらく、マレー語の方言のうち、形態論が簡略されたものの影響を受けた結果である。) (2)スンディック諸語の多くに見られるインドネシアタイプの態のシステムは祖語には存在せず、祖語はスンバワ語のように、無標の動詞述語が唯一の他動詞構文であるという特徴を持っていた。現在のインドネシアタイプの態のシステムは本来activityを示す自動詞接辞であった鼻音接頭辞が新たにActor voice構文として機能するようになったことに伴う新しい発展であり、スンバワ語はその変化を被らなかった。 今年度はこの二つの仮説を検証するため、スンバワ語の述部に現れる他のカテゴリー、テンス・アスペクト・ムードについて調査を行い、その結果をShiohara(2014)に示すとともに、その後スンバワ語話者を招聘することによってデータの再確認を行った。その結果、スンバワ語のテンス・アスペクト・ムードは他の言語とは異なる独自の発展を遂げていることがわかった。これは、スンバワ語がマレー語の方言の影響を受けているという(1)の仮説よりは、スンバワ語がインドネシアタイプの他の言語とは比較的早い段階で分化したと考える(2)の仮説を間接的に補強するものになる。
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