研究概要 |
本研究は,カナダのクィーン・シャーロット島(ブリティッシュ・コロンビア州)で話されるハイダ語(スキドゲイト方言)を対象に,形態統語法の包括的な記述を目指し,更に,言語類型論的な観点から,ハイダ語の特徴を探ることを主たる目的とするものである。今年度は,2010年8月におよそ3週間にわたる現地調査を実施し,話者の協力を得ながら,ハイダ語の形態統語法に関する言語資料と話者の自由発話によるテキストを蒐集し,それらのデータベース化と分析を行なった。今年度の成果は,おおよそ以下のようにまとめられる。 1. ハイダ語の他動性に関与する要素として,主に,手段接頭辞と使役接辞に関する調査を行なった。前者に関しては,大まかに分けて,動詞の結合価を増やすものとかえないものの二種類があるが,動詞の結合価を増やすものは対象を含意するのに対し,動詞の結合価をかえないものはそうした含意がないと基本的に考えられる。一方,使役に関しては,ハイダ語にあるいくつかの使役接辞の一部は,互いの機能が重なる面があるものの,他方では統語的なふるまいが相異なる点を明らかにし得た(但し,十分解明に至っていない点もある)。 2. ハイダ語の関係節の構造と焦点標識の機能を解明するための基礎的な調査を行なった。 3. 現地で行なわれているハイダ語教育について,その関係者と意見交換を行なった。 4. 2011年2月に開かれたThe International Haida Language Gathering(Simon Frazer University, Vancouver)に参加し,ハイダ語教育が行なわれているコミュニティーの関係者と,ハイダ語の正書法やカリキュラムについて意見交換を行なった。
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