2010年7月にロシア連邦共和国サンクトペテルブルグ市所在の東洋学研究所で開催された第52回常設国際アルタイ学会においてUnknown treasures hidden in lines of Mongolian Buddhist literature ; in the case of Mongolian versions of the Lotus sutraを発表した。本論文は当該年度における調査・研究に基づき、モンゴル語版『法華経』の行文解析を通じてそこに看取される言語の構造的特徴を概観したものである。モンゴル語版『法華経』の典拠となったのは一見チベット語版に見えるが、その実、それはある種の偽装にほかならず、実は、元朝時代に成立していたウイグル語版を典拠にしたものであることを明らかにした。引き続き2011年2月に東北大学東北アジア研究センターで開催された国際ワークショップ「モンゴル語の辞書」においては「仏典翻訳における辞書類使用の実態について」を発表した。これは、研究代表者の年来の蓄積に加えて当該年度における研究成果に立脚して、主としてチベット撰述仏典『牛首山授記経』のモンゴル語訳に例を求めて、モンゴル語仏典の翻訳にあたり当時利用可能であったはずの辞書・仏教用語集がどのように活用されたか(もしくは、されなかったか)を解明する試みである。これにより、行文中の翻訳表現を吟味することにより原典の翻訳年代が特定可能であることを明らかにした。
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