研究概要 |
前年度の成果を踏まえ、今年度は強変化動詞の生成過程についてさらに詳細な考察を推し進めることとなった。 前年度に日本歴史言語学会第1回大会で口頭発表した論考を改定増補し、公刊することができた。「ゲルマン語強変化動詞IV, V類の過去複数形に関する考察」『英語英文学論叢』(九州大学英語英文学研究会)第63集 pp.67-112である。従来の研究史では、当該形態に生じる長母音の由来を首尾一貫して説明できないことを具体的に論じ、印欧祖語の畳音の付いた完了形(a reduplicating perfect)と未完了形(an imperfect)の混交にゲルマン語の強変化動詞過去形は由来するという新たな仮説が有効であることを示している。 日本言語学会第145回大会では、「ゲルマン語強変化動詞および過去現在動詞IV, V類に見られる形態的差異について:Schumacher(2005)論考の批判的考察と形態的混交説からの提案」という論考を口頭発表した。過去現在動詞の現在形と強変化動詞の過去形は形態的に対応するところが多いが、それらのIV, V類の当該形態では、顕著な違いを見せる(過去現在動詞IV,V類現在複数形は語根がゼロ階梯母音、強変化動詞IV,V類過去複数型では語根が延長階梯母音を示す)。最新の Schumacher 2005 理論=bigetun仮説ではこの点が説明できず、私が提唱する「形態的混交説」では首尾一貫した説明ができることを論じた。 日本歴史言語学会第2回大会では「ゲルマン語強変化V類過去複数型に散発的に見られる語根末母音の有声化について:*wes- 'be, stay, dwell' の事例を中心に」を口頭発表した。強変化動詞V類過去複数型には、なぜ規則的にではなく、散発的にヴェルナーの法則適用例が見られるか、形態的混交説の立場から説明を与えた論考である。
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