1)ベルリン自由大学図書館、ボン大学図書館において近世ドイツの演劇テクストを中心に資料調査を行った。これらの図書館では日本にはないテクストを閲覧することができた。 2)ベルリン大学のF. Simmler教授、ボン大学のW. Besch教授らと面談をし、近世ドイツの教化文書に関する意見交換を行い、有益な助言と知見が得られた。 3)教化手段としての演劇テクストの言語学的分析を行った。これらのテクストでは、カトリックがエリート層を教化、教育の対象とし、言語的にもラテン語を引用するなど、高踏的な表現が多い傾向があるのに対し、プロテスタントは市民、農民層にむけて、平易なドイツ語でキリスト教の教え、生活態度を説いている。ただし、両者ともに修辞的技法などを用いて、文書の戦略的、効果的な使用に努めていることが明らかになった。 4)『エヴェリマン』、『放蕩息子の帰還』などの素材はカトリックの作者もプロテスタントの作者も共に好んで演劇化している。これらのテクストを、社会語用論の視点から、カトリックとプロテスタントの演劇手法、言語的手段について、その特徴を分析したが、そこにはそれぞれのイデオロギーが反映されていることが明らかになった。 5)高田博行学習院大学教授とともに近世ドイツに重点をおいたドイツ語史の研究成果をまとめ、『ドイツ語の歴史論』(ひつじ書房)を公刊した。この中の「ドイツ語の歴史(通史)」、「初期新高ドイツ語の造語―名詞句と複合名詞のはざま」、「戦いの手段としてのドイツ語 ― 近世宗教改革運動におけるドイツ語文書」において研究成果の一部を反映させた。
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