最終年度では、主に二つの角度から研究活動を行った。1つは西洋宣教師の中国語研究と中国人学者への影響である。分担者内田慶市は、「衛三畏在漢語語言學上的貢獻」という論文に纏めた。また中国語語彙への影響について、氏は「近代中國人編的英漢字典的譜系」を執筆し、中国人による英華辞書と西洋の新概念がいかに中国語に翻訳され、継承されたかを考察した。沈国威は、完成した『日中同形語小辞典(甲)』に続き、『現代中国語常用語彙表』について調査をし、『広辞苑』(第5版)と照合した結果、見出し語56008語のうちから16000余語の日中同形語を確定した。このような結果を踏まえ、現在日中同形語について語源記述を行いつつ、現代中国語への日本語影響の実態を明らかにすると同時に、日本語の借用による中国語多音節化の過程、表現性の変化等を分析している最中である。特に日本語の中国語への具体的な進出ルートに関して、留日学生が編纂した用語集『新爾雅』(1903)、清政府の「上諭」、立憲準備の啓蒙書、政府指定の識字教科書等を分析し、西洋の新概念の受容に際し、日本語が果たした役割の解明に努めている。また新語訳語を受け入れる側の言語意識に注目し、胡適の『文学改良芻議』(1917)を近代国語の形成という視点から再分析し、論文を完成した。『近代英華・華英辞書解題』(沈国威編・関西大学出版部、2011年250頁)もこの方面の研究において重要な基本作業である。
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