本研究課題は高齢者が語るライフストーリーの作成と、この作成されたライフストーリーの日独対照研究を目的とする。平成22年度はこの目的を実現する第1段階として、聖隷福祉事業団の協力を得、当事業団が運営する関西、中部、関東、四国に所在する介護付き有料老人ホーム6施設の入居者と、これとは別に、大阪の京阪沿線に居住する高齢者のご協力を得、倫理的配慮の下、ライフストーリーインタビューを実施した。インタビューはあらかじめフェイスシートとアンケートに記入いただき、それを基に対面形式で実施した。ご協力頂いた高齢者数は計55人で、インタビュー時間は1人あたり平均して約2時間である。採録したインタビュー音声データは文字化作業を行い、日本語の自然発話文のトランスクリプションのための規則体系であるBTSJに基づき、トランスクリプションマークの付与などの必要な処置を行い、点検後、エクセルファイルとして保管した。本年度は、この日本語のライフストーリーコーパスの作成作業を進めながら、他方で、このライフストーリーデータの一部を用いて、語られたストーリーの中に出現したフィラーについての分析を行った。この分析では、特にフィラーと高齢者の年齢3区分の関係に焦点を当て、フィラーが用いられる頻度のほか、フィラーの種類や出現順位などについて、計量的分析を行った。今回の調査で確認されたフィラーは計22種類で、全1597例を分析した。本年度は、この本邦での調査研究のほか、海外調査として、スイスとオーストリアを訪問した。スイスではチューリヒ大学で開催された「語り」分析ワークショップに参加し、ナラティブ分析の方法に関して、当大学の研究者と意見、情報を交換した。オーストリアではグラーツに所在するフロイト精神科看護専門学校と高齢者施設を訪問し、平成23年度に予定しているドイツ語圏でのライフストーリーインタビューの実施に関しての打ち合わせを行った。
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