本研究の対象は、インド東部・オリッサ州の定住ベンガル人コミュニティーにおいて話されている2言語 ―オリヤ語と、ベンガル語の非標準的な一変種― である。2言語は系統的に印欧語族インド語派に属す。 本年度の成果は、次の項目(1)~(3)のようである。 (1)資料収集。オリッサ州・カタック市で、24年3月に約一ヶ月間、調査を実施した。上記2言語につて、一人の話者との面接聴き取りを、期間中毎日4時間~5時間行った。少数の項目については、この話者以外の数人にも情報提供を求めた。日常生活での言語使用においての観察も補助的に行った。 調査項目は、主に、構造的側面に関するものだった。文法に関しては、格標示、複合語構成について、音声に関しては、音調について、詳しく調べた。上記2言語と標準ベンガル語という3言語の間で対照しながら調査を進めた。聴き取った内容の記録は、ノート筆記(一部をパソコン入力)と録音という方法によった。 (2)資料整理と理論的考察。国内では、現地調査で得られた資料を整理し、理論的考察を行った。ここでは、調査対象のインドの2言語を、日本語や世界の他の言語と対照した。 (3)成果発表。成果発表は、日本言語学会(2件、うち1件は確定)と日本南アジア学会の大会において行った。これら3件の発表では、オリヤ語における格標示関連の事象を(各発表で1点ずつ)取り上げた。次の3事象である:動詞の自他性の標示・非標示;二重目的格制約;人称制約。3事象に類似した(従って同名で呼ばれる)現象は世界の多くの言語で報告されているが、オリヤ語における事象は一見複雑に見えかつ特異点を示す。3事象について、実態報告、記述的立場からオリヤ語の仕組みの描出、類型論的な観点からの説明を提示した。
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