本研究は、グローバル化に伴う人々の移動を「女性」と「言語問題」に焦点を絞り、移民女性を取り巻く困難な社会状況を社会言語学的観点から捉えようとすることを目的とする。さらに、移民女性の言語問題を当事者の戦略とホスト社会の支援との関係を明らかにしようとするものである。 研究代表者の金は、国内では東京都新宿区のコリアンコミュニティの経済活動及び他のアジア系外国人コミュニティのホスト社会との交流について調査をした。また、日本の市民団体の日本の異民族及び外国人に対する支援活動を観察した。国外調査では、韓国の移住女性の言語問題を知るため、行政の委託団体を訪問し、実際に行っている言語支援活動の見学、言語支援を受けている移住女性のインタビュー調査ができた。また、移住者の言語で情報を出している放送局を訪問し、メディアを道具とした言語支援の状況を知ることができた。一方、アメリカではCommunity Adult Schoolを訪問し、市民を対象に行われている言語(英語)支援プログラムを利用している移民女性の言語習得状況を調査した。その他コリアン系移民とメキシコ系移民の子供への母語継承に対する意識の予備調査ができた。 研究分担者の庄司は日本国内では、中国帰国者、特に女性の日本語習得度や日本における社会参加の実情に関し、大阪周辺の帰国者を対象とする聞き取り調査を行い、夜間中学、中国帰国者支援交流センターなどでの日本語支援制度の実態を調査した。国外ではフィンランドにおいて非識字定住者を対象とするフィンランド語講座で教授方法、教材使用などの参与観察のほか、参加者や教師に対して聞き取り調査を実施した。日本では、中国帰国者においては公費、私費帰国者のあいだ、また識字、非識字者のあいだでは定住後の日本語学習度や社会参加に差が生じやすいことがうかがえる。フィンランドでは移民の資格にかかわらず非識字者へのフィンランド語支援が積極的に実施されていることが明らかになった。
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