本研究は、日本における漢字字体の規範の形成を、伝存する良質な字書に記述された字体規範と、初唐宮廷写経・開成石経・『日本書紀』写刊本に代表される標準的文献に使用された実用例の字体とを対照したデータベース構築により示すことを目的とする。漢字字体の字書記述とは字体規範を見出し漢字と「正」「俗」等の注記によって示すもので、『類聚名義抄』を中心資料に据えている。この目的を達成するために、本年度は、国内外の関連資料の調査を進め、研究発表・論文公刊を行って、特に次の2点の研究を推進した。 1.「漢字字体規範データベース」に基づく標準字体の策定と包摂規準の明確化 漢字字体規範データベース(HNG)公開文献から、中国の標準的文献(初唐宮廷写経、開成石経)に共通して出現する字種と標準字体とを抽出・整理し、初唐の標準字体と開成石経の標準字体とについて、両者に共通して同じ漢字字体となるものと、異なる漢字字体となるものの集合を策定した。また、同一の字体と認定するための規準(「包摂規準」)を精粗2段階に設定することを試みた。 2.中国字書・日本字書に基づく漢字字体データベース構築と包摂規準の明確化 中国字書としては、特に原本『玉篇』・『龍龕手鑑』・『大広益会玉篇』の、日本字書としては特に『篆隷万象名義』と『類聚名義抄』(観智院本)の漢字テキストデータベースを整備した。また、『篆隷万象名義』の漢字画像データベースは完成度を高め、観智院本『類聚名義抄』の漢字字体と比較する基礎データを構築した。さらに、字書記述の包摂規準について検討を加えた。
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