字書、韻書、音義、字様における漢字字体は、漢字それ自体によって示されるとともに、「正・俗・通・訛」等の注記によってその区別が示される。本研究では、漢字それ自体と各種の注記とをあわせて「字書記述」と呼ぶ。「実用例」は、実際の使用例という意味であり、主に取り上げるのは仏教経典である。HNGの標準的文献およびそれに準じる文献を想定している。実用例と字書記述との関係を考察するために、HNGの初唐字体と開成石経の字体の比較を行い、さらに時代によって標準字体が変化する「寂」を取り上げた。HNGに見る「寂」とその異体の実態は、南北朝・隋「」、初唐「」、晩唐「寂」と変遷することを明らかにした。
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