平成24年度は、戦前期国語政策の主たる実施場所であった学校教育において、どのような国語観の変遷が教育現場で存在したかを知るために、戦前期の地方教育会雑誌に注目して調査を行った。地方組織として県単位に設置された教育会が定期的に刊行する雑誌は、一部の都道府県については『教育関係雑誌目次集成』等に目次ページのみが掲載されているが、記事内容については各県の県立図書館や教員養成系国立大学等の所蔵資料を直接閲覧することが必要であり、北海道立図書館、宮城教育大学図書館、東北大学図書館、筑波大学図書館、埼玉県立図書館、沖縄県立図書館等に赴いて調査を行った。披見できていない資料も少なからずあるが、東北及び九州・沖縄地方を中心に結果的に25道府県の地方教育会雑誌を閲覧し、さらに『帝国教育』『郷土教育』『国語教育』等の教育関係中央誌の方言関係記事を併せた結果、学校教育での地域方言の扱いに関連した記事リストを作成した結果、明治期から昭和期にかけて500を超える点数の書誌情報をまとめることができた。この資料から以下の3点の傾向が確認することができた。1、方言関係記事が多く掲載されている地域は、東北地方と九州・沖縄地方であること。2、明治・大正期の記事のほとんどは、指導案の呈示も含めて方言や訛りの矯正に関するものであること。3、昭和期には、方言矯正に関する記事が継続している一方で、地域方言の収集・分析を行う記事、標準語教育への疑問を呈する内容の記事さえ見られること。昭和期の傾向については、柳田国男の民俗研究や小田内通敏の郷土教育運動の進展と足並みをそろえる動向であり、改革的純化論の観点に立った明治期国語調査委員会による国家語としての等質性を求める国語観とは異なる、民族(俗)的純化論の観点に立って地域方言を排除しない柔軟な国語観が教育現場においても醸成されていたことを確認することができた。
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