研究概要 |
本研究は,日本語学の立場から,平安時代に訓点の記入された仏典関係資料のうち,真言宗系統の訓点資料について,それを1つの資料群としてとらえ,そこに記入された訓点の言語の特性を解明することを目的とする。その際,この資料群全体をより小さないくつかのグループに分け,それぞれの言語の特性を分析し,その上でその結果を総合することにより,真言宗系訓点資料の全体像を明らかにしようとするものである。 本年度は研究開始に当たって設定した真言宗系訓点資料の4つのグループ(A大日経,大日経疏類),B儀軌類,C空海撰述書類,Dその他)のうち,Bの儀軌類に重点を置いて調査,考察を行い,最重要の資料については画像の撮影を実施した。 考察の結果,儀軌類の訓点資料については,次のような知見を得ることができた。 1真言宗では多数の儀軌類の古写本が伝存している。 2現在伝わる儀軌類の古写本には多くの場合,訓点が記入されていて,このことは儀軌類が真言宗においてよく読まれ,研究されたことを反映している。 3しかし,それは学問的な研究の対象というよりは,修法の際の手順を確実に理解するためのものであって,言わば実用的な意味が強かったものと考えられる。 4そこで,儀軌類の訓点に使用される言語も,古い日本語を伝承したものと言うよりは,その時々の理解のために使用された当代的なものであることが多い。 5ただし,儀軌類には類型的な表現が多く,その型自体はよく保存されているものと見られる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
訓点資料の原本調査のための調査旅行を2回実施し,書誌的なデータを多数収集することができた。それらに基づきそこに使用された言語の分析を行い,ほぼ計画通りに研究を進めることができた。また,ヨーロッパ日本研究協会の国際大会において,研究発表を行い,これまでの研究成果の一部を公表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題はあと1年の研究期間が残されているが,その中で真言宗系の訓点資料のうち,空海撰述書等の資料について,原本調査を行い,収集されたデータに基づいてそこに使用された言語の性格の分析を行う予定である。平成23年度は調査旅行が2回しか実施できなかったので,平成24年度には3回の調査旅行を実施する予定である。
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