まず前年度までの研究成果も踏まえて、動詞に下接する「~ニクシ/ニクイ」等の形容詞系難易表現の史的動向についての見解をまとめた。感情・感覚的な意味から難易の意味へという従来指摘されていた方向性が確認されたほか、A)形容詞単独用法の時点から主に難易性の意味を表しており、動詞下接用法にもそれが受け継がれているもの。B)形容詞単独用法の時点において感情・感覚的な意味と難易性の意味の両方を有しており、動詞下接用法においては後者が引き継がれたもの。C)形容詞単独用法では感情・感覚的な意味や優劣・好悪の意味を表しており、動詞下接用法において難易の意に転じたと思われるもの。の三種に分けられることを述べた。また概して困難表現の方が容易表現に比して、文法化の進展や新たな表現への更新等の史的変化が顕著であること、用例が多く用法も多様であることを述べた。 可能表現・可能性表現と近接・隣接的関係にあると見られる危惧表現について、中古を中心に考察し、従来から知られる「モゾ」「モコソ」に加え、「ヌベシ」等の複合辞系表現、「モヤ(―ム)」等の疑問推量系表現、「条件表現+評価語」等がこれに与っている可能性を指摘し、危惧表現の史的研究を行うのであれば、これらについての考察が必要となる旨の提言をした。この問題提起は新規の科学研究費補助金(基盤C 25370153)による研究に受け継がれる。 動詞系の可能表現については、「~アヘズ」「~ヤラズ」について、共通の動詞に下接する場合を中心にその相違点の考察を進めるとともに、可能表現をその起源から「完遂形式」「自発形式」「その他」に分類する場合、両者とも「完遂形式」に由来する可能性が高いこと等の考察を進めた。後者の考察は、古代語において動詞系と見られる(不)可能表現のうち、「完遂形式」「自発形式」のいずれとも結びつけ難い「~カヌ」の特異性への改めての注目にもつながる。
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