今年度の研究実績の概要について報告する。今年度は研究期間の1年目であり、研究環境をすみやかに整備するとともに、1)理論面、2)実証面の基礎的、準備的作業に重点を置いた。以下、具体的に説明していく。 1) 理論面 古代語の名詞句を扱う上で基礎論となるのは、句という言語単位がどのように位置づけられるかである。しかしながら、古代語において理論的検討はなされていないのが現状である。そこで、日英語対照研究で提示された「形態的緊密性」テストを古代語に適用する実験を行った。古代語名詞句「使ふ人」を対象として、語と句の連続性を捉える方法を考案した。その成果は、福井大学言語文化学会における研究発表、愛媛大学国語国文学会における招待講演で公開している。 2) 実証面 古代語名詞句の基礎データを構築すべく、『伊勢物語』を資料として、パイロット調査を実施した。『伊勢物語』における「人名詞句」(人を表す名詞句)をすべて抽出し、それらと述語との対応関係、指示詞との照応、意味の特定性の観点から、分析を行った。また、データを吟味する上で必要となる本文研究の成果の理解に努めた。また、国立国語研究所のプロジェクトへの参画を通して、本研究は、古典語コーパスの開発についても有用であることがわかった。 以上が研究実績の概要である。
|