1、当初予定した研究計画のうち、2に述べる事情により、「基本情報の蓄積」(近世辞書諸本の書誌情報の集積)に注力することとなった。調査を予定していた各大学附属・各都道府県立図書館等の蔵書は、書籍としての完全性や美的観点から所蔵されがちであり、必ずしも近世における通常の状況を反映するとはかぎらないことが分かってきた。もちろん、現存書は数が限られるから、それらへの調査を続ける意義は小さくない。 2、一方、新たな注目点が浮上した。各都道府県や政令指定都市の文書館・歴史資料館等における、その土地土地の旧家・名家等の古文書を一括収蔵するなかに含まれる近世辞書である。古文書目録が家ごとに作成されつつあり、付される解題からは旧蔵者の社会的位置づけが知られるのは、本研究にとって有益である。反面、文書館等の担当者が歴史学出身であるため、書籍の扱いに図書館並みの精度が求めにくいことがある。書名の採り方一つをとっても問題があり、臨地調査しなければ当該書が辞書であるかどうかすら明確にできない場合もある。このため、予定外の時間と手間を要し、他の研究計画を圧迫することとなった。 3、上述の調査の成果としては、埼玉県文書館において『永代節用重宝無尽蔵』(宝永元年ごろ刊)・『年代節用集万宝大成』(享保9年刊)、国立歴史民俗博物館において『大万歳節用集』(元禄中頃刊)、石川県立博物館において『真草二行節用集』(寛文3年刊)等、従来知られていなかった諸本に調査・検討を加えることができた。また、雑誌論文2篇においては、近世節用集の展開について17世紀と19世紀の分について詳述できた。なお、通史・方法論を俯瞰的に述べたものが現在印刷中である(笠間書院刊)。
|