書誌的情報の収集では、京都大学・国立国語研究所・栃木県立文書館・関市立図書館・国際日本文化センター・埼玉県立文書館・神奈川県立文書館・国文学研究資料館で節用集類を中心に調査した。主な成果に、『倭漢節用無双嚢』天明4年版に2種(付録内容の差と別種跋文)あるほか、『〔世用万倍〕早引大節用集』文化6年刊版に3系統5種あることなど、未報告の事実を確認した。 これらの調査に付随する知見として、『和漢音釈書言字考節用集』と、その早引節用集への改編本『〔早引〕永代節用集』との語形対照索引が1875年イタリアにて刊行されたことが知られた。また、17世紀初頭の節用集においては、まだ本格的には御家流(青蓮院流)の書風を帯びることが少ないように印象されるので、今後の課題として、書流への目配りの必要性を挙げておく。 原本資料については新たに45本を収集した(節用集22種(17世紀刊本5、18世紀刊本7、19世紀刊本11)、漢和系ほか20(字典3、韻書5、字解書3、詩作書2、国語系2、書翰作法5)。このなかには、他に東京大学国語学研究室蔵本しか知られない『真草二行節用集』両点本や、同名書が多く今後検討の要のある『頭書増補節用集大全』2本、『倭節用悉改嚢』(宝暦刊本か)の大正期写本など、今後の研究に重要かつ興味深いものが含まれる。 成果の公表としては、論文「近世節用集の教養書化期」がある。本年度およびこれまでの調査でえた知見を総合し、17世紀末から18世紀前半を、近世辞書の代表的存在である節用集における大きな展開期と位置づけつつ、その意義についてプラス面ばかりが語られがちであったが、マイナス面も看過できず、むしろ近世辞書史のなかでは商業主義の影響の大きい、異様ともいえる事象が複数展開したことを指摘した。
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