本研究課題は、平成19-21年度若手研究(B)「形式名詞の文法化に関わる日本語の構文構造史的研究」の最終年度前年度応募による発展的課題である。日本語の名詞の形式化・文法化現象に着目し、その動態・変化を支える普遍の構造に迫る。形式名詞、形式副詞、~助詞、助動詞等とされる分類をひとまず措き、形式化・文法化を果たした名詞個々の歴史・地理・共時的多機能の動態を現象面から観察分析する。「名詞の形式化>文法化」という把握のもと、名詞としての多機能・諸用法の実現可能性を見極めながら、個別名詞の語彙的意味による条件・制約、普遍・一般としての構造的条件・制約、語用論的条件・制約の相互作用としての説明を目指す。 計画初年度においては、前課題の成果の公刊により、否定文(及び非存在文)という構文環境を名詞の文法化の原動力となる再分析の重要な段階とする仮設的提言を発表した。また、名詞の形式化・文法化の具体例として「丈>ダケ」の変化を報告した。「切(限)り>キリ」他についても用例採取、整理と論文化を進めている。 また、ホカ句について、前課題で明らかにした名詞句としての多機能の様相を前提に、歴史的変化についても用例採集・分析を進めるとともに、分担者の協力のもと理論的な構造上の位置づけについて考察を進めている。ホカ句は否定述部とともに叙述の構造をなして除外解釈を持つが、否定との拘束関係はなく現代共通語では助詞化も認められない。否定述部と拘束関係を持ち"助詞化"しているシカ句との違いについて、ホカの語彙的意味上の特性と名詞句としての統語的性格によって説明する仮設的見解を得て、日本言語学会での発表を予定している(採択決定)。 なお、代表者の参画する関連研究プロジェクトにより、日本語の体言締め文の歴史的研究、名詞一語文にかかわる学説史的展開についても発表等を行い、本研究課題の推進に示唆を得ている。
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