本研究課題は、日本語名詞の形式化、文法化現象に着目し、文法化を果たした個々の名詞の歴史・地理・共時的多機能の動態を現象面から観察分析することにより、名詞としての多機能・諸用法の実現可能性を見極めながら、語彙的意味による制約と、普遍的な構造条件、語用論的条件などの相互作用として合理的説明を目指すものである。 計画第4年次となる今年度は、①ホカなど:否定文環境での否定極性の助詞への文法化、②ダケなど:否定極性をもたない助詞ヘの文法化を中心に、引き続き用例採集を進めつつ、各々の特徴や制約条件、構造的示唆について考察を行った。 具体的には、否定極性を持つ①ホカ・シカ等の統語的振る舞いと理論的位置づけについて、ワークショップ等で考察を深め、これらの意味記述において、文脈にかかわらず導かれる「随伴命題」を考慮に入れる必要性を指摘した(分担者・論文)。②ダケ類への援用可能性、叙述構造の主語位置との関係性が引き続きの検討課題となる。 また、従来の副助詞・とりたて研究において本研究の検討がどのように位置づけられるか、研究史を踏まえた整理を行った(論文・刊行時期未定)。本研究が名詞の文法化ととらえる①②と、文末形式から文法化を果たした④例示並列用法のヤラ・ナリトモ類とには、文法化の過程においても、統語的振る舞いの上でも共通点が少なくない。②ダケ類の文法化については「名詞の文法化」の枠内で①ホカ類の知見を援用するだけでなく、④ヤラ類の展開を考慮に入れる必要性が具体的に確認できた。さらに、②ダケの史的展開について精査すると、名詞性の残存とされるノ連体用法において副助詞化の後にむしろ発達することがわかった(口頭発表・採択決定)。“副詞句構成と不可分な名詞性”の把握と追究の必要性を説得的に示す現象面の報告と位置づけられる。ここで得られた問題設定は、基盤研究(C)新規課題として継続的に取りくんで行く。
|