研究期間の初年度にあたる本年度は、文法化、モダリティ、否定、後置詞など、本研究に関わりのあるテーマを中心に、2000年以降の研究文献情報を収集・データベース化し、内外の研究状況の把握に努めた。特に、モダリティーに関しては、一般言語学の視点を有する、Heiko Narrog "Modality in Japanese-The Layered Structure of the Clause and Hierarchies of Functional Categories--"(John Benjamins、2009.3)の全文を訳出し、機能的カテゴリーの階層とモダリティの関係についての議論を中心に、本研究と関わりのある問題についての検討を行った。これと並行して、スキャナとOCRを利用したコーパス作成の作業を進め、約2.0MBのデータを得た。また、モダリティの文法化に関する事例研究として、日本語の認識的モーダル「だろう」の多義性に関する論稿をまとめた。この論稿の前半では、日本語のモダリティにおける「だろう」の位置づけを確認し、「だろう」がモーダル助動詞とムードの二面性をもつことを指摘した。後半では、「だろう」の多義性をめぐる議論として、プロトタイプ的意味である推量から派生的意味である確認要求への拡張と見る推量説、推量と確認要求の両者に適合するスキーマ的意味の抽出を目指す非推量説、両者を統合するネットワーク・モデルを紹介した上で、このモデルに適合するスキーマを提案し、さらに情報構造や文法化の視点を導入した。最後に、認識的モダリティが談話的機能を担うことの必然性を示唆し、本論のまとめとした。
|