本研究では、まず、日本語のモダリティーに関する出版としては最も新しい、Heiko Narrog氏の著作"Modality in Japanese : The Layered Structure of the Clause and Hierarchies of Functional Categories"を対象として書評論文を作成した。本書は、日本語学では主流の、モダリティーを主観性や話者の態度とする規定を退け、事実性の概念を中心に、意志的・非意志的の区別と事象指向的から話者指向的へのスケールの2つの基準によってモダリティーの体系化を試みている点や、大規模なコーパス調査を行っている点が注目に値するが、マーカーのスコープ関係を判定することが中心的な課題になっている点は一面的である。これに対して、本研究では、モダリティーは、アスペクチュアリティー・テンポラリティーとともに、文の内容としての事象と現実との関係である陳述性を構成するカテゴリーであるとする、奥田靖雄、工藤真由美の動詞論、述語論の考え方を前提とし、マーカーの結合ではなく、カテゴリーの相関性という観点から、テクストタイプとの関係を踏まえて、認識的モダリティーとテンスの相関性について考察した。結論として、推量か証拠性かという認識的モダリティーのタイプおよび記述か説明かというテクストでの機能が事象のテンス(未来指向か過去・現在指向か)と強く相関すること、モダリティー形式の非過去形と過去形は、地の文では、テンスとしてではなく、語り手の視点を混入させたり、語り手の思考(評価)をきわだたせたりするというテクスト構成上の技巧として選択されており、この点でも認識的モダリティーのタイプによって傾向差が見られるということを確認した。
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