日本語のモダリティー論では、モダリティーを心的態度や主観性と規定し、客観的な事柄内容である命題との異質性を強調する議論が展開されてきた。その成果には目を見張るものがあるが、このアプローチによって、時間的なカテゴリーとの相関性という、モダリティーの重要な性質が見逃されてきたのも事実である。また、日本語学では〈可能〉がモダリティーとして扱われないという特異な状況がある。本研究では、これらの問題を指摘したうえで、可能表現の文(「することができる」および可能動詞を述語とする文)のレアリティーとテンポラリティーおよび時間的限定性との相関性をめぐって展開される奥田靖雄の議論を追跡し、これを踏まえて、「することもありうる」を述語とする文のレアリティーに関する調査を行い、結論として、「することができる」におけるポテンシャル化の方向とは逆に、「することもありうる」では、〈ポテンシャルな可能〉から〈アクチュアルな可能〉へ移行し、さらに〈認識的可能性〉へ移行しつつあることを指摘した。 また、従来、文法化の観点から論じられることのあまりない品詞体系に対して、文法化の観点を導入した研究として、村木新次郎著『日本語の品詞体系とその周辺』(ひつじ書房、2012)を書評論文の対象として取り上げて、解説・論評を行い、名詞や動詞が文法化によって後置詞や従属接続詞になる現象を補助的な品詞というカテゴリーの成立過程として法則的・体系的にとらえようとしている点を評価した。
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