本研究の目的は,『とはずがたり』の全自立語について,全事例の意味・用法を記述し,どの意味・用法にどれだけの事例があるか,どのような型の事例が多いか,ということを一覧する辞典を作成することにある。『とはずたり』の自立語の数量は,複合語・連語のまとめかたによって上下するが,異なり約6千,延べ約31千である。この辞典では,約6千の見出しのもとに,それぞれの意味・用法が記述され,約31千の事例すべてが列挙されることになる。 この辞典はコンピュータ上で作成している。久保田淳『建礼門院右京大夫集 とはずがたり』(1999年,小学館,新編日本古典文学全集)の文脈付き用語一覧KWICを作成し,その各事例に意味・用法を記述することを行った。意味・用法の枠は,場面ごと話者ごとに記述するような詳細な方向を目指すよりは,概括的な水準を基本としている。例えば,「日(ひ)」43件は天体6件・特定の期日22件・他15件,「月(つき)」52件は天体47件・暦5件,といった記述を,文脈を掲げながら行っている。 本年度は特に小頻度語彙を扱い,また大頻度語彙を含めた全体の記述の整理を進めたが,整理にまだ多少の時間を必要とする。その整理の一方で,語の意味・用法の特徴として研究界に紹介するに値すると判断したものについては,論文として公表し始めた。意味・用法の特徴を指摘することは,辞典のうちにあっても当然にかまわないが,論文とするほうがインパクトがあり,論文化の作業は,今後当分の間,続ける。
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